Updated February 6, 2025

エンジニア採用の未来:マネーフォワードが挑んだ「エンジニア組織完全英語化」の真相

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Manami Turner

Designer

※ Please click here for the English version.

はじめに

この記事では、マネーフォワードが実現した「エンジニア組織英語化」の全貌を徹底的に解説します。

マネーフォワードは約3年間で、400名超の日本語中心だったエンジニアチームの英語化に成功しました 🎉

Japan Devを通じ、2年半で42名もの外国籍エンジニアを採用し、日本語を話せない外国籍エンジニアであっても積極的に受け入れることで、開発組織の約4割以上が外国籍メンバーという、ダイバシティ豊かなチームへと進化を遂げました。

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マネーフォワードの挑戦

マネーフォワードは、60以上のソフトウェアサービスを提供するフィンテックのリーディングカンパニーです。

個人向けの家計簿アプリ「マネーフォワード ME」、法人向けバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」、さらには金融機関向けのシステム開発など、個人と法人双方に幅広い価値を提供しています。

2021年秋、同社はさらなる事業拡大を目指し開発力を強化するため、「2024年度末までにエンジニア組織を完全英語化する」という大胆な目標を掲げました。これをきっかけに、日本語を話せない外国籍エンジニアの積極採用を開始し、日本語中心だったエンジニア組織を完全英語環境にシフトさせる挑戦に乗り出しました。

この野心的な目標は、事業の可能性を大きく広げるものである一方、変革のプロセスにおいてさまざまな課題を克服する必要がありました。

今回、外国籍エンジニアに特化した求人サイトJapan Devの創業者であるエリック・ターナーが、2024年10月8日から数度に渡り、マネーフォワードの人事メンバー数名にインタビューを実施し、同社の英語化プロジェクトの全貌に迫りました。


メンバー紹介

本多 功一さん:Globalization & Communication Partners部部長。過去3年間、マネーフォワードのエンジニア組織の英語化をリードし、英語学習支援や通訳・翻訳の体制を構築。

山本 るいさん:People Forward本部 Talent Growth部副部長。研修プログラムの英語での提供や外国籍エンジニアのオンボーディングをサポート。

橋口 竜治さん:People Forward本部 グローバル採用部副部長。外国籍エンジニアの新卒採用からオンボーディングまでを担当。

保科岳志さん:People Forward本部 グローバル採用部部長。エンジニア組織のグローバル化に向けた戦略立案とその実行を担当。

※ インタビュー当時(2024年末)の所属情報です。

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マネーフォワードの本多さん、山本さん、橋口さん、保科さんにお話を伺いました。


エンジニア組織のグローバル化、3つの理由

マネーフォワードがエンジニア組織のグローバル化を推進する理由は主に3つあります。

1. 日本国内のエンジニア不足

日本国内ではエンジニアの数が明らかに不足しており、同社サービスの開発スピードを支えるには、国内だけの採用では限界があると予測されました。世界中の優秀なエンジニアを採用するためには、言語の壁を取り払ったグローバルな組織への移行が必須でした。


2. グローバル展開のための基盤作り

同社は将来的にグローバル市場へ進出することを視野に入れており、グローバルな視点を取り入れ、競争力のある開発体制を構築することが重要でした。

世界中の優秀な人材が活躍するチームを持つことはグローバル市場へ進出する際に、大きなアドバンテージとなります。

3. 多様性の促進

多様な文化やバックグラウンドを持つエンジニアがチームに加わることで、さまざまな視点から物事を考えやすくなり、新しいアイデアが生まれやすくなります。多様性は、企業カルチャーを豊かにし、より包括的な職場環境を築くことにつながります。また、外国籍エンジニアの増加は、グローバルで通用するスキルを身につけたいと考える向上心ある日本人エンジニアを惹きつける効果も期待されます。


グローバル化の構想とその始まり

マネーフォワード全体のCTO中出匠哉さんが、エンジニア組織のグローバル化を真剣に考え始めたのは、2017年9月、同社がマザーズに上場した頃でした。

中出さんは、米国のGAFA(Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple)に匹敵するような前例のないサービスを生み出すには、世界中の才能ある人材が集まる、働きやすいダイバーシティに富んだ組織をつくることが必要だと考えました。

また、日本国内で先行してグローバル化に成功していた 楽天メルカリといった企業の事例を参考に、グローバル化を実現するためには、まずエンジニア組織の共通言語を英語に統一することが重要だと判断しました。


最初の外国籍エンジニア採用

グローバル化にあたり、当初は、日本語能力のあるエンジニアを採用し、彼らが問題なく仕事を進められるようCTO室などの小規模チームで受け入れを開始しました。

外国籍エンジニアが仕事に慣れたら、徐々に他の開発チームへ異動させるプロセスを取りました。言語以外では、外国籍エンジニアの受け入れは日本人エンジニアと大差なく、チームのサポートを得ながら、より難易度の高い仕事に挑戦していくことで、チームに貢献する重要なメンバーとなっていきました。

特に、英語が苦手な日本人中心のエンジニアチームにとっては、最初の外国籍エンジニアの受け入れは重要なステップでした。バイリンガルの外国籍エンジニアをアサインすることで、将来的に日本語を話さないメンバーを受け入れる際に、彼らが架け橋となる役割を果たすことが期待されました。


転機となった2021年

当初、マネーフォワードでは、日本語を話せる外国籍エンジニアを主に採用していましたが、2021年7月に大きな転機が訪れます。それは、保科岳志さんの入社によるものでした。保科さんはグローバル採用部を立ち上げ、会社はこれまでの方針を一新し、日本語が話せない外国籍エンジニアの積極採用を打ち出しました。この転換点が、マネーフォワードにおける本格的なエンジニア組織グローバル化のスタートを告げました。そして同年秋には、全社的に「2024年度末までにエンジニア組織を完全に英語化する」という壮大な目標が共有されました。

組織の英語化に対する従業員の反応

日本語での業務に慣れ、特に不満を感じていなかったエンジニアたちに対し、『これからは英語を勉強し、英語で業務をこなしてもらう』と発表しました。これはエンジニアたちにとって、大きな衝撃だったでしょう。しかし、想像以上に多くのエンジニアがこの変化を前向きに捉えてくれました。背景には、楽天やメルカリといった日本の大手IT企業が、すでに英語を共通言語として成功を収めている事例があり、英語力を高めることが、彼らの今後のキャリアアップに直結すると認識されたことも、この変革が比較的スムーズに受け入れられた理由のひとつです。

従業員にとって英語化は大きな挑戦でありながらも、同時に成長の機会として捉える前向きな姿勢が徐々に広がっていきました。

この「エンジニア組織完全英語化プロジェクト」が組織全体に受け入れられるように、マネーフォワードのCEOやCTOをはじめとする経営陣は率先して、会社の成長にとってグローバル化がいかに重要であるかを繰り返し伝えていきました。

組織のリーダーたちが、「なぜ今グローバル化が必要なのか」という目的や、期待される成果を明確にし続けることが、組織全体として高いモチベーションを持って、プロジェクトを成功させるために不可欠だったのです。当時すでに400人以上のエンジニアを擁する大規模な日本語中心の組織を英語化することは、簡単なことではありませんでした。この大きな改革に挑んだマネーフォワードは、2つの戦略を掲げました。それは「英語化のロールモデルをつくること」、そして「メンバーの英語学習を徹底的に支援すること」です。

この2つの柱を中心に、マネーフォワードは確固たる意志をもって、エンジニア組織の英語化に取り組んでいきました。


英語化のロールモデルチーム「Team Nikko」の結成

2021年7月、マネーフォワードは日本語が話せない外国籍エンジニアを受け入れるため、初の英語公用語チーム「Team Nikko」を結成しました。このチームは、さまざまな国籍のメンバーが集まる英語を共通言語とする組織で、その名前の由来は外国人にも発音しやすく馴染みのある観光地「日光」から取られました。

Team Nikkoの結成には、グローバル化を進める中で、1つの成功事例を基盤にして他のチームに英語化を広めるという戦略がありました。Team Nikkoは10カ国以上から多様なメンバーが集まり、そのうち4分の3が外国籍という多国籍なチームとなりました。初期段階から、日本語が話せないメンバーを積極的にアサインし、日本語優先のコミュニケーションにならないよう、日本人メンバーの数を抑えたチーム構成としました。これにより、外国籍エンジニアが疎外感を感じることなく、英語でスムーズにコミュニケーションできる環境となりました。

この試みの中で得られた知識とノウハウは、ドキュメントや動画にまとめ、他のチームが英語化を進める際のリソースとして活用しました。特に、英語でどのようにスクラム開発を進めるか、必要な英語力のレベルがわかる実践的な動画は、他チームにとって大きな助けとなりました。

また、英語があまり得意でない日本人メンバーも数名アサインし、同時に彼らの英語学習を支援しました。これは、英語に慣れていないメンバーが英語環境に適応するための効果的なアプローチを模索する目的でした。

このように、得られた知識をロールモデルとして他のチームに共有することで、2022年末までに複数のエンジニアチームを完全に英語化することができました。


日本人エンジニアへの英語学習支援

同社は、Team Nikkoをはじめとする英語化のロールモデルを作ることと並行し、日本人エンジニアの英語学習支援にも力を入れました。

英語コーチングスクールの講師経験者の協力を得て、TOEIC®や国際指標CEFRに準拠したPROGOS®などの英語スピーキングテストを活用し、各エンジニアのレベルに応じた4段階のカリキュラムを提供しています。

このカリキュラムは、定期的なテストに基づき、次のステージに進む仕組みです。

  • ステージ1・2: 基本的な単語や文法の習得(TOEIC700点相当の英語力を目指す)

  • ステージ3: スピーキングの型を学び・アウトプット重視のオンライングループレッスン

  • ステージ4・5: 会話回数を増やし、実践的な英語コミュニケーションを磨くオンラインレッスン

単に教わるだけでは不十分と考え、自学自習を促進し、効率的な学習方法を教えるコーチングにも力を入れています。4〜5名のグループを編成し、自習しながら毎週フィードバックを受ける形式で進めています。

英語学習を業務と両立できるよう、英語学習の対象者は「1日3時間まで業務時間内に英語学習を行ってよい」という特別ルールが設けられています。これにより、仕事と学習のバランスを保ちながら、英語力を向上させることができる環境が整っています。

また、チーム単位で英語化の目標期日を設け、期日までに英語化を達成するという目標に向かって、チーム全体で一体感を持って取り組んでいます。

英語力の指標と英語化の条件

マネーフォワードでは、業務で求められる英語スキルの基準として、以下の指標を用いています。

  • TOEIC 700点以上: 業務に必要な最低限の読み聞きが可能(DeepLなどの翻訳機を活用する際に、訳された内容を自分自身で違和感がないか確認・添削できる力を求めている)

  • PROGOS B1以上: ビジネスミーティングに参加し、会議内容を概ね理解することができる。関連する話題については端的に発信することができる。

  • TOEIC 800点以上、PROGOS B1 High以上: 積極的に会議に参加することができ、会議のファシリテーションや1on1などの業務を英語でできる(特にマネジメントレイヤーに最低限求める英語基準)

英語化の達成には、以下の3つの条件をすべて満たすことが求められます。

  1. チーム全員がTOEIC 700点以上

  2. チームの80~100%以上がPROGOS B1以上

  3. 日本語が話せないメンバーが所属している、又は所属・業務できる状態


本物の英語力を目指して

本多さんは、英語スキルの本質について次のように語ります。

「英語スキルと言っても、その目的によって難易度が異なります。プレゼンなどで一方的に話すだけなら比較的簡単にできるようになりますが、英語で議論し、意見を交わすレベルとなると、その難易度は格段に上がります。」

これまでは英語テストのスコアを目標としていましたが、それは単なるスタート地点だと本多さんは言います。真の英語力とは、完璧ではなくても「自分の意図を相手に適切に伝えられる能力」にあり、それを高めるためには英語を使う機会を増やし、英語でのコミュニケーションを続けることが重要だと強調しています。

英語を楽しみながら学ぶ文化

本多さんは、Stageや目標を段階的にすることで、エンジニアたちがゲーム感覚で楽しんで英語力を高められるよう工夫していると言及しています。

「マネーフォワードのエンジニアは、アプリを使って英語力をレベルアップさせたり、お互いの進捗を共有することを積極的に行います。メンバーは、外国籍メンバーと積極的にコミュニケーションを取ろうとする人が多いですね。英語力にかかわらず、外国籍メンバーと仲良くなり、話をすることに熱心です。」

さらに、海外経験のあるビジネスメンバーも外国籍メンバーと積極的に交流しており、ビジネス職に限らず社内全体で自然な英語化が進んでいます。このような日常的な交流が、チームだけでなく、組織全体にポジティブな影響を与えており、マネーフォワード全体のグローバル化を加速させています。


英語化の範囲と進め方

日本でエンジニア組織の英語化に成功した大手テクノロジー企業はまだ多くありませんが、楽天やメルカリがその代表的な事例として挙げられます。楽天は2010年から一気に全職種で社内言語を英語に切り替え、メルカリはエンジニア組織から段階的に英語化を進めてきました。マネーフォワードは、エンジニア組織に焦点を当てた英語化を進めています。

このアプローチを選んだ理由は主に2つあります。

まず1つ目は、同社の顧客層の大部分が日本人や日本企業であることです。現状では、ビジネスチームが日本語で業務を行う必要があります。したがって、ビジネス職メンバーの英語化は他の部門に比べて優先度が低いと判断しました。

2つ目の理由は、マネーフォワードがトップダウン型の組織ではなく、ボトムアップ型のカルチャーを持っている点です。自発性を重んじた英語化の方が、自然な形で進められると考えました。実際に、同社のエンジニアたちは自発的で自由な社風のため、高いモチベーションを持っており、社内のコミュニケーションも活発です。Slackには3万個以上の絵文字が登録されているという事実も、メンバー同士のフレンドリーな交流を象徴しています。

トップダウンで全職種を一気に英語化する方法もありますが、急速な変革にはリスクも伴います。急な変化に対応できず、離職する社員や、英語に対する苦手意識を持ってしまう社員が増える可能性があるからです。マネーフォワードは、まずエンジニア組織のみに焦点を当てた英語化を計画し、日本人メンバーへの英語学習支援を強化しながら、チームごとに段階的に英語化を進め、最終的には「英語でのコミュニケーションが楽しめる」文化をエンジニア組織全体に根付かせることを目指しています。

エンジニア組織から英語化をスタートさせましたが、プロダクト開発はエンジニアだけで行われるわけではありません。そのため、現時点ではエンジニア組織と関わる部門中心の英語化までを見据え、デザイナーやプロダクトマネージャーなど、プロダクト開発に関わる職種も順次英語でのコミュニケーションを推進していく予定です。エンジニア組織で培った英語化ノウハウや、内製化してきた英語教育の知見を、他の職種や部門にも展開していく方針です。


優秀なグローバルエンジニアの採用戦略:マネーフォワードの成功例

マネーフォワードはエンジニア組織のグローバル化を進める中で、外国籍エンジニアの採用を強化するために「Japan Dev」を積極的に活用しました。その結果、2022年春から2024年夏までの約2年半で、42名の外国籍エンジニアをJapan Dev経由で採用することに成功しています。

この成果は、同社がグローバル化に真剣に取り組み、その姿勢を世界に向けて継続的に発信してきた結果といえるでしょう。

マネーフォワードは、外国籍メンバーが安心して働ける環境を整えるために、Diversity, Equity & Inclusion(DEI)の推進に注力してきました。具体的には、会社の価値観を明確にした「Culture Deck」の公開や、人権ポリシーDEIステートメントの制定を行い、ダイバーシティを尊重する姿勢を明確に示しています。

また、異文化コミュニケーション研修、Prayer room(礼拝室)の設置など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが、お互いを尊重しながら働けるよう支援しました。

さらに、Japan Devの企業プロフィールやJapan Devブログ記事(例:言語サポートのある企業特集子育て中の社員が働きやすい企業特集OSS活動に理解のある企業特集)でも、同社の様々な取り組みを積極的に発信し、世界中の優秀なエンジニアに向けてわかりやすく情報を提供してきました。

日本企業が米国企業と給与レンジで競争することは難しい現実がありますが、日本のカルチャーに興味を持ち、日本で働くことに魅力を感じるエンジニアは少なからず存在しています。マネーフォワードのように、グローバルな視点で採用を強化し、外国籍の優秀なエンジニアにアプローチするためには、彼らを惹きつける環境や文化をしっかりとアピールすることが重要です。

マネーフォワードの取り組みは、まさにその成功例として、日本企業がグローバル人材を獲得する際のモデルケースとなるでしょう。


海外拠点とグローバルチームの連携

マネーフォワードは現在、東京、名古屋、京都、大阪、福岡といった国内拠点に加え、インド、ベトナムのハノイ、ホーチミンといった海外拠点を設立しています。どのように海外拠点を立ち上げ、グローバルチームと連携しているのでしょうか。

海外拠点設立の背景

マネーフォワードは、アジャイル開発において日本国外の優秀なエンジニアの力が不可欠であることを早い段階で認識していました。そのため、日本拠点の英語化が進む前から、海外拠点を設立しています。

2018年、まずベトナムに現地法人を設立し、翌2019年にはホーチミンに本格的な開発拠点を構築。さらに2022年には2つ目の開発拠点をハノイに設立し、約3年で100名以上のエンジニアを採用しています。これにより、ベトナム拠点はマネーフォワードの主要プロダクト開発を担う重要なチームとなりました。

日本拠点の英語化に先立って、海外拠点設立当初から現地の公用語を英語にしたことが、エンジニア組織のスムーズな成長に大きく寄与しています。

2021年9月からは日本拠点でも日本語不問の採用を開始し、現在は世界各国からエンジニアを採用しています。

海外拠点の役割と進化

マネーフォワードにおいて、海外拠点は「オフショア拠点」ではありません。同社は初期段階から、海外拠点を日本のチームと同じプロダクト開発のパートナーとして位置づけ、グローバル全体で総会やイベントを開催するなど、一体感を持って開発してきました。

以前は、拠点ごとにプロダクト開発を分担する形が主流でしたが、現在では国を超えてチームが連携し、共同で開発を行うスタイルへと進化しています。この変化により、拠点間のコミュニケーションが円滑になり、アジャイル開発のプロセスが一層スムーズになりました。

同社のチームスローガン「Let’s make it Together!」は、まさにこのグローバルな協力体制を象徴しており、拠点間での連携を深める原動力となっています。

時差への対応

グローバルな開発体制とする上で、最大の課題の一つはタイムゾーンの違いです。例えば、日本の午前9時にインドのメンバーとトレーニングセッションを行う場合、インドでは午前5時半という非常に早い時間帯になってしまいます。このような課題に対して、マネーフォワードは各拠点のチームに無理がない時間帯を模索し、適切なスケジュール調整やオンラインミーティングの工夫を進めています。

本多さんもこの点について言及しており、「チームに配慮しながら、効率的な方法でグローバル全体の研修やミーティングを進めている」と説明しています。


Diversity & Inclusion: 外国籍エンジニアが働きやすい環境づくりを目指して

オンボーディングとリロケーションサポート

マネーフォワードは、外国籍エンジニアがスムーズに日本で働ける環境を整えるため、オンボーディングやリロケーションサポートにおいて、大きな進歩を遂げています。

同社は、外国籍メンバーを迎える際、単なる教育・研修に留まらず、日本への移住を円滑に進めるための幅広い支援を提供しています。研修を担当した山本さんは、2022年に入社した際の経験を振り返り、当時の外国籍エンジニアのオンボーディングを次のように振り返ります。

「2022年の4月に4人の日本に『まったく慣れていない』新卒エンジニアを迎え入れました。彼らは日本語が話せず、日本での生活も初めてでした。さらに、中途採用で内定は出ていたものの、コロナの影響で日本への渡航が遅れていたメンバーもおり、リロケーションの調整には大変な時間がかかりました。」

2022年5月には、さらに50名の外国籍エンジニアが入社し、これまで日本語で行っていた研修を一気に英語対応へと切り替えました。山本さんは、そのスピード感に驚いた経験を、こう述べています。

「ブラジル、インド、ベトナムなど、さまざまな国から新しい仲間が加わりました。私はただひたすら、全員を歓迎し『マネーフォワードへようこそ!』とおもてなしの心で対応し続けました。私は研修の役割に徹底していたため、比較的スムーズに取り組めました。でも、残りの人事チームのメンバーは突然、50名ものメンバーのビザの手続きや移住支援を行うことになり、無事に日本に移住し、会社に入社してもらうため、本当に必死だったと思います。当時は、バックオフィスでもこのグローバルな状況に対応できる人材がそれほど多くありませんでした。数人しかおらず、ゼロから構築すること、整備することがたくさんありました。本当に小さなスタートアップで働いているような気分でした。」

そのような挑戦を乗り越え、マネーフォワードの人事チームは、外国籍エンジニアにとっても働きやすい環境づくりを目指し、オンボーディング、リロケーションサポートのプロセスを日々改善してきました。

現在では、入国時の一時金支給や、初期滞在用のアパートの手配、さらには長期滞在用物件探しのサポートとして、英語対応が可能な不動産仲介会社の紹介や、銀行口座開設サポートといった、生活に欠かせない手続きの支援も充実させています。


通訳・翻訳サポートの工夫と実践:グローバルチームを支える「Globalization & Communication Partners」

マネーフォワードは、エンジニアだけでも700名以上を超える大企業です。その中でスムーズなコミュニケーションを支えるために「Globalization & Communication Partners」というチームが結成されています。

効率的なサポート体制の確立

本多さんは、限られたリソースで大規模な組織にどのように言語サポートを提供しているかについて、次のように語っています。

「日本語が中心だった組織を英語化するのは本当に大きな挑戦です。私たちは段階的アプローチを取り、会議の重要度や緊急性に応じて、通訳・翻訳の提供範囲を決めています。たとえば、全社員向けの重要なアナウンスやメッセージは、外国籍エンジニアも同じように受け入れられていると感じてもらえるよう、必ず英語と日本語で併記します。また、口頭で行う必要のある重要な会議は、問題なく英語での会議が行えるようになるまで、継続的に通訳をつけてサポートしています。」

AI活用で自立した英語翻訳を推進

限られた通訳・翻訳サポートリソースで、すべての翻訳業務を担うことはできないため、メンバーが自立して英語対応できるよう、AIを活用した効率化にも力を入れています。本多さんはAI技術の積極的な活用について次のように述べています。

「私たちのリソースには限界があります。そのため、ChatGPTなどのAIツールを活用した翻訳のノウハウをメンバーに共有していくことで、メンバー自身で英語対応する力を養っていってもらうための取組みを行っています。」

実践的な施策で英語化を推進

「メンバーが自然に英語でコミュニケーションを取れる環境を整えることが重要です」と本多さんは語ります。たとえば、Slackでのコミュニケーションについて、最初のメッセージを英語で送ることを推奨し、日本語を理解しないメンバーがいるチャネルでは英語のみを使用するなどのガイドラインを整備しています。ただし、ガイドラインだけで英語化が進むわけではなく、日常的な環境作りが鍵となります。

生きた英語を学ぶ機会の提供

マネーフォワードでは、単に英語力の向上を目指すだけでなく、外国籍メンバーと日本人メンバーが自然に交流し、英語でのコミュニケーションを楽しむ場を提供しています。本多さんは次のように話します。

「たとえば、オフィス増設時に壁を一緒にペイントするイベントや、定期的に開催する文化交流イベントなどを通じて、楽しく英語を使う機会を提供しています。こうしたイベントを通じて、外国籍メンバーとの交流が進むことで、メンバーが『もっと英語を話したい』と感じ、英語学習への意欲が自然に高まっていきます。」

社内にある通訳・翻訳のサポートをうまく活用していくことと同時に、メンバー自身が自発的に英語化に取り組む文化を育むことが、マネーフォワードのグローバル化を力強く支えています。


「TERAKOYA」:外国籍エンジニアのための日本語学習サポート

マネーフォワードは、日本人メンバーの英語学習支援に加え、外国籍メンバーが日本語を学べるサポートも積極的に行っています。

2021年以前は、外国籍エンジニアに日本語で働くことを求めていましたが、2021年以降は外国籍エンジニアに日本語能力は求めていません。

たとえ業務で必要がなくても、日本で生活する以上、日本語を理解できる方が、より快適に楽しく生活できるという考えで、希望者には、日本人メンバーが有志で外国籍メンバーに日本語を教える制度「TERAKOYA」を実施しています。この取り組みでは、日本人メンバーと外国籍メンバーが2人1組となり、簡単な日本語や仕事の進め方を個別に指導するほか、一緒にランチをするなど、カジュアルな交流を通じて日本語を学びます。

「TERAKOYA」は単なる日本語学習の場にとどまらず、異文化交流や職場での人間関係構築の一環として、外国籍メンバーが日本で生活するためのノウハウを自然と学ぶ貴重な機会となっています。

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外国籍メンバーと日本人メンバーの交流の場「TERAKOYA」に集うメンバーたち


文化の壁を乗り越える:マネーフォワードのチームワークの秘訣

グローバルチームを支える感謝と対話の文化

今回のインタビューで特に印象深かったのは、日本人メンバーと外国籍メンバーの間に大きな分断が見られなかったことです。

山本さんは、次のように語ります。

「問題が全くなかったわけではありません。特に、外国籍メンバーがさまざまなバックグラウンドを持っている点が、複雑さを増していました。インド、インドネシア、ベトナム、ヨーロッパなど、英語を母国語としないメンバーが多く、彼らは日本人と同じように第2言語として英語を使用しています。そのため、英語のアクセントがそれぞれ異なります。また、国ごとのコミュニケーションスタイルの違いや、日本のハイコンテクスト文化と、海外のローコンテクスト文化とのギャップもあり、これらの違いが相互理解を難しくすることもあります。」

こうした文化や言語の違いがある中で、重要なのは、自分の意図が「本当に相手に伝わっているか」を意識しながら、丁寧にコミュニケーションを取ることだと山本さんは強調します。言語や文化的なギャップがあるメンバーを受け入れる過程で、当然ながら混乱やミスコミュニケーションが起こることもありますが、そのたびに対話を重ね、フィードバックを続けることで、解決に導けると語っています。

実際、コミュニケーションが活発になればなるほど、問題解決のスピードも上がると山本さんは実感しています。マネーフォワードには「ありがとう」を伝え合う文化が根付いており、メンバー全員が互いに尊重し合い、最善を尽くす姿勢を持っています。相手への感謝の気持ちと、積極的なコミュニケーションこそが、文化的な違いを乗り越え、強いチームワークを築く鍵となっているのです。

組織のグローバル化において、分断はどこに起こりやすいのか

橋口さんは、次のように言います。

「外国籍エンジニアは、同じ国出身のメンバーと特に絆を深めていることが見受けられますが、それは悪いことではありません。彼らが祖国を離れて外国の企業で働くという状況を考えれば、同じバックグラウンドを持つ仲間がいることは、とても心強いことだと思います。

たとえ国ごとに絆が深まりやすい傾向があっても、他国出身のメンバーや日本人メンバーとも積極的に交流しています。分断が起こるとすれば、それは出身国の問題ではなく、日本人だけの組織でも見られるような、別の原因があるケースがほとんどだと思います。外国籍エンジニアが増えたことでエンジニア組織内に大きな分断が生じたわけではありません。今後の課題は、エンジニア組織が英語を共通言語とする中で、ビジネス部門など日本語が中心の他部門と、どうスムーズに連携を図っていくかだと考えています。」

コミュニケーションを促進する施策

マネーフォワードの人事チームは、変革の過程における困難を乗り越えるための最大の鍵は「コミュニケーションを活発にすること」だと強調しています。そのため、現在は少なくとも週2回のオフィス勤務を必須としています。

以前は週1回以上の出社が条件でしたが、より活発にコミュニケーションをおこないアイデアが生まれやすい環境を目指して、最低でも週2回以上のオフィス勤務をルールとして導入しました。エンジニアはリモートワークを好む傾向がありますが、実際には多くのメンバーがオフィス勤務を楽しんでいると人事チームは話します。

たとえば、午後6時以降には無料でドリンクを楽しめるエリアがあり、そこでメンバーがボードゲームや会話を楽しんでいます。また、出社日はメンバー同士でランチに行く人が多いようです。

このような小さなコミュニケーションの積み重ねが、メンバー同士の絆を深め、チームの一体感を強化する大きな役割を果たしているのです。


グローバル標準のエンジニア評価制度

マネーフォワードのCTOである中出匠哉さんは、グローバル標準のエンジニア評価制度の整備について、次のように語ります。

「グローバル標準のエンジニア評価制度を構築するのは非常にチャレンジングです。特に、日本人だけの組織と比べて、評価基準を『細部まで徹底して言語化する』ことが重要です。国によってマネジメントスタイルやフィードバックのアプローチが異なる中で、全てのメンバーが納得感を持てる評価方法にしなければなりません。」

「例えば、エンジニアがマネージャーの示した目標に基づいて開発できたかなど、エンジニア自身がコントロールできる要素を、誰もが理解できる基準で明確に言語化することが必要です。単に曖昧な表現で済ませるのではなく、さらに具体的に掘り下げて言語化していくイメージです。」

グローバル標準で納得感のある評価制度を実現するため、同社ではグローバル組織でのマネジメント経験を持つ人材を積極的に採用し、評価制度の整備に取り組んでいます。


外国籍リーダーの登用

マネーフォワードは、経営会議や取締役会の英語化を推進し、外国籍リーダーが参加しやすい環境を目指しています。

山本さんは次のように説明します。

「正直に言うと、まだ道半ばです。現状では、日本人メンバーに比べて、外国籍メンバーがハイレイヤーポジションに就いている割合は少ないのが実情です。私たちは今、彼らがより重要な役職に就けるよう努力しています。」

これは、マネーフォワードが現在積極的に取り組んでいる重要なテーマです。同社は、外国籍リーダーの育成を目指し、「Leadership Forward Program(以下、LFP)」というマネジメントトレーニングプログラムを英語で開始しました。

このプログラムには、すでにリーダーシップを発揮している、または将来リーダーとして活躍したいという意思を持つ外国籍メンバーが多く参加しています。

マネーフォワードは現在、60以上のプロダクトを展開しており、それぞれのプロダクトごとに、CTOをはじめとする多くのハイレイヤーポジションが存在します。今後は、これらの主要ポジションに外国籍メンバーを積極的に登用していく方針です。目標としては、ハイレイヤーポジションにおける日本人と外国籍メンバーの比率をおおむね同等にすることを目指しています。


「エンジニア組織英語化」の達成

マネーフォワードは、日本の大手IT企業の中でもいち早くグローバル化に取り組み、2021年秋から2024年11月末までの約3年間で「エンジニア組織完全英語化」を達成することを目標に掲げてきました。果たして、その目標はどの程度達成できたのでしょうか?

社員総数2,500人ほどのうち、約700名がエンジニアやデザイナーといったソフトウェア開発者で構成されているマネーフォワード。2024年11月末時点で、開発組織の約4割以上が外国籍メンバーとなり、今後数年以内にはその割合が5割を超える見込みです。

エンジニア英語化の施策は、95%ものエンジニアがTOEIC700点超え、94%がPROGOS B1以上を達成しており、現在はエンジニア組織の大半のチームに外国籍メンバーが在籍しており、基本的に開発文書、Slackでのコミュニケーション、また多くの会議は英語で実施されています。

現時点でのポリシーとしては、日本人だけの場合、またはベトナム人だけの場合など、英語ではない言語を全員が理解できる状況では、口頭での言語は英語を強制しておらず、その場にいる全員が理解する他言語で話すことを許容しています。しかし、そのような場合でも、議事録やテキストベースの資料はすべて英語で統一しています。ChatGPT、DeepLといったAI翻訳ツールの普及により、こうしたテキストの英語化はスムーズです。

一方、エンジニア組織以外のデザイナーやプロダクトマネージャー、人事部門などは、まだ完全な英語化には至っていません。ビジネスサイドの会議では依然として日本語が主流で、英語化の進展具合は部門ごとに異なります。

エンジニア組織のグローバル化は決して容易ではありませんでした。しかし、マネーフォワードは約3年の歳月をかけて、この「エンジニア組織英語化」という目標を達成しました。その結果、国籍に関わらず、日本語不問でエンジニアを採用できる環境が整い、特にアジアのトップ大学出身の優秀なエンジニアを採用することができました。これは、日本語が話せるエンジニアをターゲットした採用施策では実現が難しかったことです。

日本は人口減少という課題に直面しており、国内のみで優秀なエンジニアを確保するのは非常に困難です。マネーフォワードにとって、エンジニア組織の英語化は、事業成功のための必須戦略であり、この3年間の投資は価値のあるものでした。

この大規模な英語化プロジェクトを推進した本多さんは、次のように述べています。

「私たちがエンジニア組織の英語化をここまで推進できているのは、会社としての価値観、Mission Vision Values Culture(MVVC)が明確にあり、各メンバーがそれを体現できているからです。いろいろ試して、たくさん失敗しました。途中でやめてしまったメンバーもいました。それでもRespectやTeamworkなどのCultureをそれぞれが理解し体現できたことで、突き進むことができました。このMVVCがなければ、ここまで来ることはできなかったと思います。」


未来への展望

マネーフォワードは、フィンテック分野での圧倒的なシェア獲得を目指すだけでなく、さらにその先の未来に向けて社会全体をより良くする大きなビジョンを掲げたいと考えています。

CTOの中出さんはこう語ります。

「マネーフォワードはこれからも、社会に大きなインパクトを与え、より良い未来を築くサービスを提供していけると信じています。

たとえば、将来的には自動で会計記帳が行われ、税務申告すら不要になるような世界を実現できるかもしれません。さらにその先には、スマートシティの構築といった壮大なビジョンを掲げることも十分に可能です。

そのためには、目の前の機能開発に留まらず、どんな新しい価値を社会に提供できるのかを常に考え続けることが大切です。」

マネーフォワードは現在の成功に甘んじることなく、さらに広がる未来を見据え、革新的なサービスを生み出すため、常に進化していくことを目指しています。


「マネーフォワードに続け!」未来のグローバル企業へ:エンジニア組織の英語化が切り拓く可能性

日本のIT企業にとって、エンジニア組織のグローバル化は無限のチャンスを秘めています。今回のインタビューで取り上げたマネーフォワードは、その成功を象徴する一例です。同社はエンジニアチームを英語化し、日本語が話せない外国籍エンジニアが働きやすい環境を真剣に整備しました。その結果、ダイバシティ豊かなエンジニアチームの構築に成功し、採用可能な人材プールは従来の10倍以上に拡大したといっても過言ではありません。

多様な才能を持つエンジニアが集結することで、革新的なサービスを生み出すチャンスが大幅に広がり、開発スピードも飛躍的に向上します。これは単に技術力が向上するだけでなく、企業のグローバル競争力を強化し、成長を加速させる大きな原動力となります。この動きは日本経済全体にもポジティブな影響を与えるでしょう。

特に人口減少が進む日本において、エンジニア組織のグローバル化は、企業が持続的に成長するための「鍵」となると言えます。

しかしながら、組織の英語化は決して容易ではありません。マネーフォワードの挑戦に学ぶべきは、その困難を乗り越えるために会社の価値観や目標を組織全体で共有し、強固な企業カルチャーのもとで一丸となって行動を続けることの大切さです。

マネーフォワードのグローバル化の取り組みは2024年度末で一つの区切りを迎えますが、これで終わりではなく、同社は真のグローバル企業を目指してさらなる成長を続けていくでしょう。

この記事が、エンジニア組織の英語化やグローバル化に挑戦する日本企業にとって、有益なヒントとなれば幸いです。

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